第六章 少女は夢の中にて光りて

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「なんだって……?」 「あの影夜がやりそうなこと。沙夜が生きたのは、地の底の門が開かれ瘴気が溢れたなんて言われた時代。あっちこっちで、それを静める為の儀式がこういう人目のつかない場所で行われていたんだよ」  忌々しげに呟く彼女は、まるでその時代を知っているかのような口ぶりだった。前にも感じた違和感である事に一真は気が付く。日向は一体いつ、どこで生まれたのだろう。 「で、その願いは届いたのか……」  届いていない。儀式は失敗した。一真はこの儀式場そのもの、そこで行われた事そのものに反発するように、心の中で吐き捨てる。誰かを犠牲にして、それで平穏が訪れたとして、彼らは笑顔でいられるのだろうか? いられるものなのだろうか? 「さぁ、それは受け取り次第。この手の儀式の大部分は、恐れ、苦しみ、悲しみ、負の気を誤魔化すだけ。『これだけしたんだから、良くなるだろう』という気休めにしかならない。それどころか、時に、贄となった者が物の怪と化してしまう事もあるから」  それが当たり前の事ではないのか。 「どうして、殺すの」  少女の言葉が一真の頭から離れない。何故自分じゃなくてはいけないのか。そう思う事は、自然な事と一真は思う。 「ま、あの女の子はともかく、沙夜の方は贄としてちゃんと働いたね――そんな顔しないでよ。あくまで事実を述べただけなんだから」  あからさまに嫌悪が一真の顔に出たのだろう。日向は自分でも言ってみて嫌になっているんだよというように、肩を竦めた。  やるせない気持ちになり、一真はきつく唇を噛みしめる。既に捧げられてしまった命を蘇らせる事など出来ない。それを実行した者達をどうこうする事も。  だが、その全てを利用し、玩弄した男を捕える事は出来る。 「この穴は塞いでしまわないとね。また、何が出るか……分からない、し」  言葉が途切れ、日向の実体が突然、半透明の幽霊のようにぼやけ出した。
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