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「お、おい、どうしたんだよ!?」
まさか、先程の戦いか。慌てふためく一真に、日向は力無くしかし、飄々と笑いかける。
「一真君を引き戻すのって物凄く、力が要るんだよねぇ」
――俺のせいか……?
馬鹿だった。敵の奸計である事に、或いはあれが「本物の月」ではない事に、気付いていれば。
――もっと、強ければ
そう、自分を責める一真に、日向はこれまでに無い程厳しい目を向ける。
「何のために、私が君と一緒に来たんだと思う? 自惚れるな。一人だけで全てを救えるなんて――あなたは、あなたが契を結んだのは、誰?」
「――月」
日向はフッと微笑んだ。そうだと、強く肯定するように。それから空気その物に溶け込むようにして消えてしまった。後に残ったのは一枚の護符だけ。それを拾い、懐に入れて一真は、真っ直ぐと道を見据える。
「さて、行くか……一人じゃないのが幸いだな」
「へ、忘れられていたんじゃねぇかって思ってたところだぜ、一真よ」
天が、一真の手元で低い震えるような音を放つ。
「お前は俺の相棒だ。忘れるわけないだろ」
「くくく、相手が女だったら、さぞかしいい口説き文句になっただろうなぁ」
天の声に、別の意味で不気味な物を感じた。女性に対して不器用であると、そう笑うつもりなのだろうか、この剣は。
「あいつと契を結んだって言っても、お前はこうやって、他のやつのことの為にだって戦えるような人間だし、誰かが傷つくのを黙って見ていられるような奴でもねぇ」
からかわれ、褒められ、あぁそうかと一真は身構えた。次に来るのは。
「だが、そのせいで、あっちこっちふらふらと、誰彼構わずに『期待させて』しまうなよ? いや、させても構わんが、『誰』と契を結んだか、くらいは覚えておくんだな――でないと身を滅ぼすぞ」
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