第六章 少女は夢の中にて光りて

12/68
前へ
/329ページ
次へ
「お、おい、どうしたんだよ!?」  まさか、先程の戦いか。慌てふためく一真に、日向は力無くしかし、飄々と笑いかける。 「一真君を引き戻すのって物凄く、力が要るんだよねぇ」 ――俺のせいか……?  馬鹿だった。敵の奸計である事に、或いはあれが「本物の月」ではない事に、気付いていれば。 ――もっと、強ければ  そう、自分を責める一真に、日向はこれまでに無い程厳しい目を向ける。 「何のために、私が君と一緒に来たんだと思う? 自惚れるな。一人だけで全てを救えるなんて――あなたは、あなたが契を結んだのは、誰?」 「――月」  日向はフッと微笑んだ。そうだと、強く肯定するように。それから空気その物に溶け込むようにして消えてしまった。後に残ったのは一枚の護符だけ。それを拾い、懐に入れて一真は、真っ直ぐと道を見据える。 「さて、行くか……一人じゃないのが幸いだな」 「へ、忘れられていたんじゃねぇかって思ってたところだぜ、一真よ」  天が、一真の手元で低い震えるような音を放つ。 「お前は俺の相棒だ。忘れるわけないだろ」 「くくく、相手が女だったら、さぞかしいい口説き文句になっただろうなぁ」  天の声に、別の意味で不気味な物を感じた。女性に対して不器用であると、そう笑うつもりなのだろうか、この剣は。 「あいつと契を結んだって言っても、お前はこうやって、他のやつのことの為にだって戦えるような人間だし、誰かが傷つくのを黙って見ていられるような奴でもねぇ」  からかわれ、褒められ、あぁそうかと一真は身構えた。次に来るのは。 「だが、そのせいで、あっちこっちふらふらと、誰彼構わずに『期待させて』しまうなよ? いや、させても構わんが、『誰』と契を結んだか、くらいは覚えておくんだな――でないと身を滅ぼすぞ」
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加