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そこは巨大な部屋だった。
ドーム状の天井は謎の機械に埋め尽くされ、機構がガチャガチャと目まぐるしく蠢いている。
あれらは一体何なのだ?そもそもこの部屋はどうなっているのだ?
暫く辺りを見渡せば、自分が今いる位置はこの部屋の中心部にあたる場所だと分かった。そしてここは蠢く機械群から成る祭壇の様なものの上だと気が付いた。
訳が分からない。私はこの世界の……
様子を伺っていると機械の一部分が動き、黒く丸い穴が空いた。そこから一人の人間が現れた。
カツカツと機械の上を歩く人間の足音が聞こえてくる。先程から私はそいつの顔を拝んでやろうとしているのだが……
顔が分からない。見えている筈なのに分からない。
どう表現をしたらいいのだろうか。脳があの人間の顔を認識出来ていない、とでも言えばいいのだろうか。
そのせいで顔はおろか髪型さえも認識出来ない。何者なのだ、こいつは。こんな不気味な奴は初めて見た。
ゆっくりとこちらへ向かって来る。得体の知れないモノを見る恐怖心と、そこから生まれるあの人間の顔を見たいという欲求がぶつかり合い、対象から目が離せない。
ーーおや?こんな所に穴が空いているじゃないかーー
あの正体不明の人間の声だ。その音すらも私は上手く聞き取れていない。
というより聞きたくない。何故なら、あいつの声は高音と重低音が幾つも折り重なって聞こえてくるのだ。
ーーふむ、この世界も進み出したというわけかーー
不快な不協和音が私の鼓膜を揺さぶる。このまま聞き続ければ確実に頭がおかしくなるだろう。
それからこいつは何のことを言っている?世界が進み出した?訳が分からない。
この部屋は何から何まで訳のわからないモノで溢れている。とても私一人では処理し切れそうもない。
ーーもう少し、もう少し待つとしよう。その時が来るまで様子を見ていようーー
何やら独り言を呟いている。その呟きでさえ不協和音となり、私の頭の中をガンガンと揺さぶる。
ーーこんな穴は塞いでいまおうーー
奴の手がこちらに伸びてくる。私の視界が奴の片手で覆われてしまった。
何故だ?先程まで全身が見えていたというのに、私に少し近付いただけで急に大きくなった。
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