うちのボスは狂ってらっしゃる

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廊下を歩いてると、先の自販機の横のソファに赤髪の青年が腰を掛けているのが見えた。 「ボス!」 「……あぁ、うん。分かってるよ、エイン」 ボスは椅子に座り目を瞑ってはブツブツと独り言を漏らす。 「ボス?」 「……あぁ、お前か、どうした?」 「ボス、頭でも狂っちゃてません? エインは死んだ、去年に。 もしかして、幽霊でも見えてるんですか?」 そう、俺が言うようにボスはおかしくなった。 前のボス『エイン』が死んでから。 精神不安定、多重人格障害、そして統合失調症だと、診断されたそうだ。多分、今の妄想も原因はそれだろう。 「エインは肉体的死んだけど、生きてる。君が知らないだけ」 やっぱり狂ってる。 が、そんなイカレた人だが、実績はちゃんと積んでいる。 前のボスが手を付けなかった、殺人及び暗殺、国外の裏組織との密貿易、武器の密造など……。 この一年で、ファミリーも大きくなったとは思う。 しかし、だ。 そもそも、実績は積んでようと、こんな狂った人が何故、次期ボスに昇格できたのか。それだけは心底理解できない。 「まぁ、ボスが生きてるって言ったら生きてるんでしょうね。エインさんは」 「……もう君、幹部だし、ボスじゃなくて『アルベルト』って読んだら? 二人の時だけ許すよ 君は俺より年上なんだし」 「……歳とか関係ないでしょ。あんたはこのファミリーのボス。そして俺はその部下」 「そうか?俺はこのファミリーで一番歳の人がボスになればよかったのに、と思うよ。 ……そういえば、お前。もうすぐ子供生まれるんだって? 昇格、出来るといいな」 よっこらせ とおっさんみたいに腰を上げ、空になったコーヒー缶をゴミ箱へと投げ入れる。 「……それか、人を殺した数で給料が変わる、この世界から足を洗うか」 「足を洗うなんて無理ですよ。もう俺はこの世界に馴染み過ぎた」 「そっか……」 そう言い、足を進めた。 が、何かを思い出したのか足を止め、踵を返した。 「あ、そういえば、君。 白、赤、黒の騎士 知ってる?」 「何ですかそれ?」 「んー俺にも解らないから君に聴いてるの」 「あーそれなら、何かの童話で聞いた事あるんですけど……、うまく思い出せないですね」 「……そっか。んじゃ、思い出したら連絡入れて」 ボスはそう言い残し、廊下の先へと向かっていった。
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