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「―――近藤…、拓海。」
間を開けてフルネームを言われたのは、授業が終わってお昼を食べに行こうと教室を出たところだった。
呼んだのは担任で、俺が確信犯で無視しないためだろう。名前呼びすれば、ギロッと里桜が最近睨むようになってきたから、仕方無くフルネームだ。ざまあ。
「……何ですか?」
「少しですむ。こっち来い。」
―――出来れば、このまま済ませてほしかった。
渋々と担任に近付くと、誰にも聞こえないようにするためか、向こうもこっちによってきた。
「…拓海、お前バイトとかしてないよな?」
「は?」
脈絡の無い話をいきなりされて、俺は顰めっ面になった。
「……それが何ですか?」
「答えろ、してないよな?」
「……したませんけど?」
「よし。じゃぁ、今日から遠藤に勉強を教えろ。」
「…………は?」
ハトが豆鉄砲を食らった顔、と言う言葉は知っているが、そんな顔見たこともなかったし、したこともなかった、今までは。
「頼む、アイツのカテキョをして、赤点とらせるな。」
「……意味がわかりません。なんで、赤点取ったらダメなんですか?それに、カテキョ…、意味がわかりません。」
大事なことは二回言います。
俺が睨んでいると、見詰めるなよと訳のわからないことを言ってきた担任。顔が赤くなってるのは、俺の目が可笑しいからそう見えてほしい。
「ゴホッ…と、兎に角、遠藤のカテキョやれ。じゃないと単位やんねーからな。」
「……理由を求めます。それに、単位もらえなくても補習なんて出ませんから。留年して困るのは、先生ですよね?」
「………お前…、わかった。今日残ってろよ?一人でな。」
「今じゃダメなんですか?」
「長くなっていいなら。」
「わかりました、残ってます。それじゃぁ。」
―――長くなるなんて真っ平ごめんだ。
俺は担任に言って、待っていてくれた里桜達のところに戻った。
俺の後ろ姿を見て、切り換え早いなと担任がぼやいていたのは知っていた。
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