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「えっ」
「俺、もう腹一杯。食べる店に入るのはツライ」
「そっか…そーだよね」
と、ぶつぶつ口の中で繰り返す縁。
優真に対する拒絶を匂わせているのか、それとも回りくどく照れているだけなのか。優真には判らない。
だからこそ、少しぶっきらぼうで強気な声が出てしまった。
「寒いから、行くなら行くぞ」
縁の返事を待たず、歩き始める。
優真が二歩進まぬうちに、その手に縁の指が絡んだ。
「待ってよーっ」
甘く可愛らしい声が、艶やかさをまとって優真の鼓膜を震わせた。
しかしそれは同時に優しくまろやかに響き、気持ちが昂る一方で安堵も与えてくれる。
いつも通りの縁の姿が、優真にはこれ以上なく嬉しかった。
真意不明な縁の態度の理由を放置し、理解を先伸ばしすることで得る安らぎなどまやかしだと、優真にも判っている。
それでも、自分のものだとずっと信じてきたこの手を離さねばならない可能性を考えると心臓がキリキリと締め付けられ、痛みすら感じる。
離す直前までは、強く握り締めていたかった。
今、自分がその意思でもって繋ぐことのできるいつも通りの関係が、いつも以上に嬉しい。
その喜びが優真の期待を少しずつ膨らませ、それがまた慎重な優真に苦痛を与える。
その狭間で、優真はそれでも、縁を欲していた。
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