3.優眞と縁、噛み合わぬままに

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「父さんはともかく、優真の気持ちが聞きたい」  ぬけぬけと言ってくる縁に、優真は目眩がしてきた。  親父さんと最後に話したのは、夏だった。  客人としてはもう、朗らかに迎えられ会話を楽しむ程には良好な関係を築いていた。それでもやはり、結婚の話題になると途端に沈黙で返される。  この時も、困ったように苦笑され、はぐらかされてしまった。  勿論それは、最初に比べたら、かなり穏やかで友好的な反応だ。  優真が、恋人として初めて会った時は、親父さんは真顔を全く崩さなかった。 「君は誠実で優秀なのだろう。学者として大成するかもしれない。それなら、それを支えてくれる妻をめとるべきだ。縁には無理だ」  優真を持ち上げながら穏やかに諭すその延長で、 「縁はピアニストなんだ。それを支えられる夫でないと困る。君には、縁を支えられる財力も人脈もない」  はっきり、縁の夫として力不足であると言い切られてしまった。  そしてそれは、全くその通りだった。  「ピアニストとしての縁は自分の憧れの根本であり、それを支えることについて吝かではない」という精神論でしか主張できない無力を、心底実感した瞬間だった。   以後、不得手なりに優真も頑張ってきた。なかなか実を結ばないが、縁も親父さんの了承も諦めるつもりはない。師弟関係に亀裂が入ることはあってはならないのだ。  それをだ。  この人間は、事も無げに「結婚しちゃおう」みたいな気軽なノリで強気にゴリ押ししようと企むとは…。  一喝して説教すべきなのか…どんな言葉を以てすれば彼女を理解させられるのか…考えながら、段々と、優真はどうでもよくなってきた。  もう、どうでも良いんじゃなかろうか。こんな人間との結婚についてこだわる必要など、どこにあろうか。
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