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ズルいな、と口の中だけで小さく溢す。優真はもう、敗けを認める他なかった。
こだわりの全てがバカバカしく、今となっては自分の卑小な努力など浅慮な傲慢さゆえのもがきにしか思えない。
縁を、手に入れたい。
自分のものだと示したい。
生活を共有したい。
同じ未来を見たい。
そして単純に、縁の隣にいたい。
縁が、自分の隣に当然として存在していてほしい。
その欲求以外の何もかもが、もう、心の底からどうでもよく感じてしまった。
ふわりと、操られるように立ち上がった優真は、そのまま、押し流されるような滑らかな動きで縁に近付く。
縁への気持ちが強すぎて、表情に感情を込める余裕がない。
縁への配慮も遠慮も感じられない雰囲気を放ちながら、冷淡な瞳で上から見下ろす優真の様子は、怒っているようにも、縁を蔑んでいるようにも見えた。
優真を迎える縁の顔が、少し強張る。
それすら、優真には見えていないのか。
見えていても、反応できないのか。
優真は、自分の中だけで完結する勝手な理屈に、思考を乗っ取られていた。
「ゆー」
名前を呼ぼうとした縁の声が途中で終わる。
優真の手のひらが縁の耳の下に差し込まれ、顎の付け根を包んだ。
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