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「言うタイミングがなくて」
結婚しようなどと唐突に言い出しておいて何がタイミングだよ、と考えながら、優真は何とか脳内の混乱を収めるべくゆっくり話を進める。
「仕事の調整は大丈夫なのか?」
妊娠してから10ヶ月程度で出産となると、既に稼働しているイベントも多いのではなかろうか。
特にコンサートなどは、長期プランニングの上に成り立つもので、巻き込む関係者も多ければ動くお金も大きい。安易にキャンセルなどできないだろう。
「大丈夫、もともと、少な目に受けてたから」
「いや、そんなことないだろ。年に何回コンサートしてたか自分で判ってる? 単独のだけでも結構な量だし、他の」
「いや、だから、ね。最近あんまり受けてなかったの」
「最近て」
「…去年くらいから」
「去年? 何で」
「…えーっと。…あの」
縁が言い淀むため、どんどん心配になってくる。一体何があったのか…優真は、急かしたくなる気持ちを抑え、穏やかな口調を意識して相づちを打つ。
「ん、何?」
「いや、何があったって訳じゃないんだけどね?」
「うん」
「ただ、ね?」
「ただ、どうした?」
「あの…そろそろ子ども産もっかな、なんて、ちょっと、思って…」
俯きつつあった顔は完全に真下を向き、声も最後は聞き取れないほど掠れていた。
当の縁も、さすがに独りよがりすぎると感じてはいたようだ。
「…子どもの計画を、何で一人で立ててんだよ」
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