3.優眞と縁、噛み合わぬままに

13/14
前へ
/31ページ
次へ
「言うタイミングがなくて」  結婚しようなどと唐突に言い出しておいて何がタイミングだよ、と考えながら、優真は何とか脳内の混乱を収めるべくゆっくり話を進める。 「仕事の調整は大丈夫なのか?」  妊娠してから10ヶ月程度で出産となると、既に稼働しているイベントも多いのではなかろうか。  特にコンサートなどは、長期プランニングの上に成り立つもので、巻き込む関係者も多ければ動くお金も大きい。安易にキャンセルなどできないだろう。 「大丈夫、もともと、少な目に受けてたから」 「いや、そんなことないだろ。年に何回コンサートしてたか自分で判ってる? 単独のだけでも結構な量だし、他の」 「いや、だから、ね。最近あんまり受けてなかったの」 「最近て」 「…去年くらいから」 「去年? 何で」 「…えーっと。…あの」  縁が言い淀むため、どんどん心配になってくる。一体何があったのか…優真は、急かしたくなる気持ちを抑え、穏やかな口調を意識して相づちを打つ。 「ん、何?」 「いや、何があったって訳じゃないんだけどね?」 「うん」 「ただ、ね?」 「ただ、どうした?」 「あの…そろそろ子ども産もっかな、なんて、ちょっと、思って…」  俯きつつあった顔は完全に真下を向き、声も最後は聞き取れないほど掠れていた。  当の縁も、さすがに独りよがりすぎると感じてはいたようだ。 「…子どもの計画を、何で一人で立ててんだよ」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加