お互いの日常

13/20
前へ
/38ページ
次へ
「吉原先輩、よろしくお願いしますっ!」 「もう来てたの?」 「はいっ!吉原先輩をお待たせする訳にはいきませんから!」 「ああ、そう…」 開口一番、元気が良いこの子の名前は芳崎百合(よしざきゆり)。 何か何処となくふわふわしてるって言うかのほほんとしてると言うか。 それでいてしっかりしてる。こういうタイプは嫌いじゃない。 「じゃ、早速稽古しよっか。まぁあまり気合い入れ過ぎないで。空回りしちゃうから」 「分かりました!私ここで座って待ってますから用意出来たらお願いしますね」 律儀な事に、もう道着に着替えて正座している。 いつから来てたの、この子。 部室のロッカーに向かう。 道着や竹刀なんかは全部ここに仕舞ってある。 待たせるのも悪いので、そそくさと着替えて百合ちゃんの元に戻る。 「お待たせ。試合は一本勝負、良い?」 「勿論ですっ。よろしくお願いします!」 「よろしくお願いします。」 お互い面を被って竹刀を握る。 一瞬にして周りが静まり返る。 私はこの雰囲気が堪らなく好きだ。 お互いの距離感、頭脳戦。ほんの少しの隙で勝負が決まるという、その感覚。 摺り足で距離を測る。 一瞬。隙が生まれたその一瞬を狙う。 「はぁああああああ!!」 「やぁああああああ!!」 お互い、ほぼ同時に足を出す。 狙う先は、彼女の胴。 そして彼女が狙うは、面。 大きな声と共に片方の一閃が、道場内に大きく響いた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加