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◇◆◇
それは、突然の出来事だった。
「君!」
誰への呼びかけだろう。どうせ自分には関係ないだろうが、とりあえず津田千晶(つだちあき)は振り向いてみた。
4月はじめのとある朝。その行動が運の尽き――もとい、波乱のステージの幕開けだった。
そこにいたのは、おそらく千晶よりも少しばかり背の高い、強烈な美人だったのだ。
目ヂカラが半端ではない黒曜の瞳が印象的な、大人びた女子生徒。すっと通った鼻梁(びりょう)に、無駄な肉のない頬、そのくせ、自然と色づいた唇はぷっくりとしていて引き込まれそうだ。
スラリとしたモデルのような体型に、高校生とは思えない豊かな胸元。それは奇跡的なプロポーションと言えた。吹いてきた朝の風に、夜を思わせる長い黒髪が優雅になびく。
思わず、千晶は息を呑んだ。自分は雑草、相手は薔薇、それくらいの差はあるだろうか。
いや、この美人の前では、凡人は余さず雑草になってしまうだろう。それくらい、容姿もそうだが強烈なオーラがにじみ出ていた。
校庭の時間が止まる。正門側からのその美人の呼びかけが「君」というただ一言だったために、誰もが動くに動けないのであった。
大勢の視線をものともせずに、その美人はしゃんとした姿勢で校門を潜り抜け――あろうことか、千晶の前で立ち止まった。
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