序章

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「君だ」 「えぇ?」  僕ですか? という気持ちで千晶が自分を指差すと、彼女は突然千晶の前で跪いた。 「私は君に恋をしてしまった!」  やけに芝居がかった大げさな仕草で、その美人は千晶を讃えるように右手を突き出し、左手は礼儀正しい執事のように胸元に添えて言い放った。 「もう君以外考えられない。私のものになってくれ!」  晴天の霹靂(へきれき)だ。  千晶は驚くのを通り越して茫然とした。まだ日も暮れないうちから、というよりは朝っぱらから突然公衆の面前での大胆告白。しかもこんな目の覚めるような美人から熱烈にだ。  刺激が強すぎて言葉にならない。 「あの……僕、あなたのことをよく知りませんけど」  やっとそれだけを搾り出すと、その美人は立ち上がって千晶の手を取った。しゃんと背筋を伸ばすと、彼女は千晶よりも背が高い。千晶が小柄なせいもあるだろうが。 「知らなくてもいい。いまから知ってくれ。わかったな。返事は?」 「は、はい」  いきなり綺麗な女の人に手を掴まれ至近距離から見つめられ……逃れられる術がどこにあったか。少なくとも、千晶は逃げ道を見出せなかった。  女子生徒はよしと笑う。 「私と付き合え。そして君は、晴れて生徒会と演劇部の仲間入りを果たすのだ」  その声は、晴れ渡った青空の下、神託のように響いたのだった。
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