34人が本棚に入れています
本棚に追加
「君だ」
「えぇ?」
僕ですか? という気持ちで千晶が自分を指差すと、彼女は突然千晶の前で跪いた。
「私は君に恋をしてしまった!」
やけに芝居がかった大げさな仕草で、その美人は千晶を讃えるように右手を突き出し、左手は礼儀正しい執事のように胸元に添えて言い放った。
「もう君以外考えられない。私のものになってくれ!」
晴天の霹靂(へきれき)だ。
千晶は驚くのを通り越して茫然とした。まだ日も暮れないうちから、というよりは朝っぱらから突然公衆の面前での大胆告白。しかもこんな目の覚めるような美人から熱烈にだ。
刺激が強すぎて言葉にならない。
「あの……僕、あなたのことをよく知りませんけど」
やっとそれだけを搾り出すと、その美人は立ち上がって千晶の手を取った。しゃんと背筋を伸ばすと、彼女は千晶よりも背が高い。千晶が小柄なせいもあるだろうが。
「知らなくてもいい。いまから知ってくれ。わかったな。返事は?」
「は、はい」
いきなり綺麗な女の人に手を掴まれ至近距離から見つめられ……逃れられる術がどこにあったか。少なくとも、千晶は逃げ道を見出せなかった。
女子生徒はよしと笑う。
「私と付き合え。そして君は、晴れて生徒会と演劇部の仲間入りを果たすのだ」
その声は、晴れ渡った青空の下、神託のように響いたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!