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先制攻撃でレインが派手に崩壊させた洞窟は今や洞窟と呼べる存在ではなくなっている。入り口が岩で完全に塞がれていて、中の様子を伺い知る(ウカガイシル)ことができない。
「でも、中にはラヴァウルフしかいなかっただろうし、別にいいんじゃない?」
「まあそうだけどさ。もし人でもいたらどうすんだよ」
「うん、いやお兄ちゃんの指示で魔法撃ったんだけどね? てかラヴァウルフの巣に入る人なんていないって」
確かにその通りだ。この湿地は何気に魔物が多く住んでいるうえに、洞窟はラヴァウルフの巣だった。人などいるはずがない。どうやら俺の妹はその辺まで頭が回っていたようだ。
『きゅ~……』
「ん?」
「お兄ちゃん、今何か聞こえたよね」
「ああ」
『う……うぅ…………』
また聞こえた。
気のせいかな、洞窟の方で音が鳴っているような。
音というか声のような。
か細い声。まるで弱り切った女性のような声。
レインを見る。顔面蒼白。冷や汗たらたら。
「…………レイン」
「………………は、はい」
「洞窟に人はいないよな?」
「……………………………………」
「いないよな?」
「……た、多分」
「じゃあ今のは俺達が奇遇にも全く同じ空耳を聞いただけだよな」
「…………はい」
「…………よし村に戻──」
『た、助けてくださぁい……』
「………………」
「………………」
あ、これ人の声だわ。
「バカ妹が! 完全に人巻き込んでんじゃねーか!!」
「ごめんなさーい!!!」
必死で洞窟跡の岩石を掘り起こし始める。発掘作業開始である。
「大丈夫ですか!? 今助けますから安心してください!」
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」
テンパりながら崩れた洞窟を掘り起こす勇者2人組など、史上初なのではないだろうか。
『にゃ……助かりますにゃあ……』
岩の下から聞こえる声は聞こえづらく、どこのに声の主が埋もれているのかわからない。手当たり次第に岩をひっくり返す作業が続く。
それにしても何だこの喋り方は。猫みたいににゃあにゃあ言えば可愛いとでも思っているのだろうか。
こういう人は苦手だが、助けないわけにもいかないので俺は必死になって岩石を掘り続けた。
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