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「にゃあ、一時はどうなるかと思いました。助けてくれてありがとうごさいますにゃあ」
「………………」
「………………」
俺達ウェザー兄妹は今、とても不思議な体験をしている。
「にゃ、申し遅れました。私、ユリといいます。にゃあ」
言葉が理解できるのだ。
崩落した洞窟から救出した“これ”の発する言葉を理解しているのだ。
「にゃにゃ? なんだか微妙な反応ですね」
いや、俺達はおかしくない。おそらく“これ”がおかしいのだ。
俺達が“これ”の言葉を理解しているのではなく、“これ”が俺達人間の言葉を話しているのだ。
「うん、まあそりゃあね。微妙な反応にもなるよね。だって人の言葉話す猫なんて絶対おかしいもん。俺はおかしくない」
「ああ、お兄ちゃんにもやっぱり猫に見えるんだ? じゃあ幻覚じゃないね。むしろ聞こえてくる言葉が幻聴なんだね。お兄ちゃんとわたしが偶然同じ空耳を聞いているんだね」
「にゃっ!? 幻覚でも幻聴でもないです! 私はここにいますにゃあ!!」
俺達の前でにゃあにゃあ騒いで怒ってぴょんぴょん飛び跳ねているのは紛れもなく猫。
翡翠(ヒスイ)のような緑色の瞳をした真っ黒な猫だ。
崩れた洞窟の中には人ではなく人の言葉を使いこなす猫がいたのだ。そう、受け入れがたいが事実としてこの猫は人の言葉を理解している。しかも自分で喋っている。
「にゃあああ! いいですか!? 私はケット・シーという妖精なんですにゃ! だから人の言葉を話しても何もおかしいことはないんです! にゃあ!」
妖精。精霊の一種だ。それは魔物と似て非なるもの。“魔を支配せし王”サタナス・リーパーが魔物を生み出す以前よりこの世界に存在する超自然生命体が精霊だ。
“魔を支配せし王”の力によって生まれた魔物とは対称に、精霊は自然界にもともと存在する生命力のようなものから生まれたとされている。
そして妖精は精霊の中でも特異的な存在だ。一般的な精霊は不定形であるが、妖精は確立した自分の“姿”を保っていて、なおかつ人の言葉を理解する。
なるほど、猫の姿を保った妖精というのなら今の状況もうなずける。
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