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その夜は満月が輝いていた。
雲も無く空気も澄み、月ははっきりと見える。
「お兄ちゃん……」
宿の窓から夜空を眺める俺に声をかけたのは俺の妹。
「ん、やっぱ思い出すよな。満月の夜は」
「うん。“あの日の夜”は忘れられないよ。……ううん、忘れちゃいけない」
「…………だよな」
一度妹に向けた視線を俺はまた空へと戻した。
脳裏には“あの日の夜”が浮かんだ。
──3年前。
とある満月の夜。
「また火の手が上がったぞ!」
「子供達を逃がすんだ! 急げ!」
「何なんだコイツらは!?」
「つべこべ言わずに戦え!」
当時15歳だった俺は夜中に喧騒が聞こえて目を覚ました。カーテンを開けて窓の外を見てみれば村が地獄になっている。そこら中で炎が燃え盛り、魔物が駆け回り村人達を襲う。そんな光景が広がっていた。
「んぅ……おにいちゃん?」
「…………」
隣室から妹が起きてきたが、俺は反応することができない。
「なんで外がうるさいの? ねえ、おにいちゃん」
「あ、いや、わかんねーや」
我に返った俺は慌ててカーテンを閉めた。村の惨状を妹には見せたくなかった。
「でも、なんか明るいよ? 何かあったの?」
俺がなんとか取り繕おうとすると、村人の誰かが魔物に攻撃されたのか大きな悲鳴が轟いた。
「えっ!? 悲鳴!?」
半分寝ぼけていた妹が完全に目を覚ました。ドアが壊れるような勢いで開いたのはそれとほぼ同時だった。
「2人とも無事!?」
「か、母さん……」
「お母さん、これどうなってるの!? わたし今起きたばっかりで──」
ドアを開けたのは焦って興奮気味になった母だった。母は「話は後よ!」と俺と妹の手を引き走り出す。どうやら村の避難所になっている洞窟へ向かっているらしいのだ。正確には洞窟の地下が避難所で、俺達が着いた頃には地下避難所には村の子供達が多く集められていた。
「母さん、俺も戦えるぞ!?」
「わたしも魔法で!」
「子供の遊びじゃないのよ! ここにいなさい!」
そう言って母は足早に村へと引き返していった。
洞窟は村から少し離れていて、避難所は地下。村の喧騒は何ひとつ聞こえない。
どれくらいかは分からないが、長い時間を薄暗くジメつく地下で待ち続ける俺達にも限界が来た。村で魔物を退治している大人達はいくら待っても迎えに来なかったのだ。
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