勿忘草

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――あの人、大事なことは本当にすぐ忘れちゃうんだから。 老婦人の呟きが青年医師の目を前方に戻した。 この髪は、かつては、輝くばかりの金髪(ブロンド)だったに違いない。 振り向かない夫人の銀髪の頭を眺めながら、車を押す医師は思う。 老婆になった今でも、この人の肌は雪の様に白く、水色の瞳はまるでアクアマリンだ。 入院したばかりの頃は、この夫婦の孫娘とか、姪っ子とか、少しでも血の繋がった若い女が見舞いに来ないかと俺は密かに、だが本気で期待したものだった。
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