青い花

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「この、いっぱい咲いてる青い花は?」 老人の問い掛けに対し、車椅子の老婦人は眼前に広がる青紫の花畑を暫(しばら)く見詰めていたが、やがて頭を振った。 ――しらない。 陽射しを浴びた老婦人の髪は白というより透き通った銀色だ。 円らな水色の瞳を見開いて華奢な首を振る様(さま)は、まるで童女に見えた。 「君の一番好きな花じゃないか」 老人は車椅子を押しながら、青紫の花畑の中をゆっくりと進む。 ――はじめて、みたわ。 「君の家の側(そば)にも、たくさん咲いていたね」 老人の目に、無数の花が宿る。 ――おへやに、こんなの、さいてない。 「ずっと君に話しかけたくて、それで、あの時、花の名前を聞いたんだ」 老人の口元がやや悪戯(いたずら)っぽく笑う。 ――へんなひと。
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