24人が本棚に入れています
本棚に追加
「思い出してくれ」
老人は花の中に崩れ落ちるようにして跪(ひざまず)くと、妻の銀髪の頭をかき抱いた。
「勿忘草(わすれなぐさ)だよ」
噛み締める様に告げる夫の頬を、光るものが伝う。
「君が、昔、僕に教えてくれただろ」
――しらなーい。
頭を抱かれたまま、老女は、虚ろな目のまま子守唄でも歌う風に語尾を延ばす。
「僕はずっと覚えてるよ」
老人は翳(かげ)って花と同じ青紫になった目を見開いた。
「君が全部忘れたと言っても」
最初のコメントを投稿しよう!