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「おーい!」
怒りより焦りを孕(はら)んだ声が唐突に飛び込んできた。
老夫婦の孫と言っても通るほど若い男が花を蹴散らすようにして駆けてくる。
「ダメですよ、病院の敷地を出ちゃ」
走り寄った青年はやや横柄なほど強硬な口調で老人に告げた。
「この近くは川があって危ないんですから!」
言いながら、汗を滲ませた青年は花畑の向こうを盛んに指差す。
「すみません」
老人は目を伏せて答える。
「私の不注意でした」
「指示に従っていただけない場合は、患者との散歩は禁止します」
青年は執拗に食い下がった。
「本当に、申し訳ありません」
老人は深々と長身を折り曲げて頭を下げる。
そうなると、青年もさすがに矛先を失った顔つきになった。
「それじゃ、おばあちゃん、そろそろお部屋に戻りましょうね」
青年は打って変わって笑顔で告げると、せかせかと老女の車椅子を押し始めた。
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