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「…が、王には不安を抱いていただいてはならぬ。
作戦は順調に進行中であると私からお伝え申し上げよう。…心配するな外回廊方面には、炎系の従者を20名ほど率いたレオノラント少尉の従者隊を当たらせる。内回廊方面に専念できれば、数に勝る我が軍に有利。そうすれば中尉の報告は嘘にはならぬ。…どうだね?…それでも難しいというのなら…」
「いえ。やります。やらせてください。…レオノラント少尉は…いつ準備を終えられそうですか?」
「…既に移動中だよジストン中尉。明日の朝には期待する効果が現れるだろう。なになに、焦ることはない。中尉の隊とて我が軍で1、2を争う精鋭部隊だ。後方からの揺さぶりさえ抑えれば、王に堂々と優勢の報をお伝えすることができるであろう」
ダルガバス宰相は口調こそ穏やかだが、恐縮し目線を下げた私には、宰相が握りしめる拳に血管が浮き上がり小刻みに震えているのが嫌でも見えてしまう。
「…では、あと一刻ほどすれば王が碧色の塔から降りてこられる頃だ。私は王と会食の予定だが…君も同席し、私の指示どおりの戦況報告を…王にしてくれるね?ジストン中尉」
ダルガバス宰相が『君』という呼び方をした時には逆らってはならない…以前から軍では有名な言い伝えだが…奇しくも私の30周刻前までの上司が身を持ってそれを証明してくれていた。だから私は黙って首を縦に振るよりしかたがない。
王と席を同じくするなど恐れ多く心が重いが、王族でもない私に同席を勧めてくれるのは…まだまだ私を「使える」と思っていただけているのだろう。隊の部下のためにも…家族のためにも…宰相の期待に沿うよう努めるしかない。私は言葉を発することなく、ただ頷くだけだった。
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