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食事が済むと、さっさと寝る支度をする。寒くなってきたせいもあるが、家には電気が通っていない。夜更かしをしてランプの油を無駄遣いするのは避けたかった。
二階の自室に行く。ハンモックと書き物用のデスクがあるだけの簡素な部屋だ。もっとも、独り身には手入れをしやすい分、暮らしやすい。
燭台をデスクに置く。ごく至近距離だけ明るい。壁に飾られた古い地図が暗がりに浮かぶ。その前をヴィーがふらふらと横切る。
窓の外を見る。暗い。月が出ていないらしい。
「いる?」
不意にユーミンが呼びかける。
「なんだ?」
返事は窓のところからあった。光る目が振り向く。
今日のJは猫のままだ。月明かりがないのだから当然だが。
「……ううん」
ユーミンはハンモックに上がった。上掛けを被る。どうもおかしい。今日の自分は妙に人恋しい。
チチッ、チチッ、と鳴いていたヴィーがユーミンの頭の横に下りる。温かく柔らかい体をユーミンの手が包みこむように触る。
なかなか寝付けなかった。考えがとりとめもなく脳裏を巡る。
うとうとしかけた夜半、天井裏から声が聞こえてきた。幼い少女のような、高くきゃんきゃんした声だ。二人いる。
また鳥が巣でも作ったのだろうか。聞くともなしに耳を傾ける。
「――マリオったら、せっかく苦労して手に入れたのに、他人にあげちゃったのよ。ばかみたい。そんなにいい人だと思われたいのかしら」
「彼はただ、あげたかったからそうしたのよ」
「それが親切だって言うの? 相手が喜ぶとは限らないじゃない。表面上は喜んでみせたって、内心じゃ迷惑しているかもしれないわ。余計なことはしないのがいちばん親切なのよ」
「そうかしら……」
――――
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