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肩に止まったこうもりのヴィーが明るい声で言う。
「せっかく来たのに曇りなんてな。こりゃ早いとこ帰った方がいいぜ。一雨来そうだ」
並んで歩く灰色猫のJが空を見上げる。
「そうか? 日中は持ちそうな気がするが」
むっとしてヴィーは猫の首に飛び移る。
「余計なこと言うなよ、おっさん」
Jはやれやれと肩を竦める。
ユーミンとの付き合いが長いのはヴィーの方だ。ユーミンはかつて街で暮らしていた。そのときのことをJはよく知らない。ヴィーには何か懸念することがあるのだろう。それが何なのか、ヴィーもユーミンも語らない。
何かあるならはっきり言えばいいのに。Jにはヴィーの気遣いが理解できない。
その店だ、とJが言う前に、ユーミンの足が止まった。目的の店から子どもが二人、はしゃぎながら駆け出してきた。手にカラフルな棒付きの飴を持っている。
「走らないでね!」
と、店内から女性の声が追いかける。
「お菓子屋さん?」
「いや、雑貨屋だ。占いもする。そこそこ当たるはずなんだが」
「……魔法使い?」
「いや」
言って、Jが先に店内に入った。ユーミンも続く。
広くはない店内は物であふれていた。異国風の色鮮やかなアクセサリや服、人形などの他、ユーミンには用途のわからない物も並んでいる。お菓子と茶葉の瓶もある。落ち着くような興奮するような不思議な香りに包まれる。
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