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そこは迷宮だった。
薄暗く、長い、魔物が潜み、いつ襲いかかってくるか分からない、そんな場所だ。
昔、興味本位で読んだ、ギリシャ神話にもこういうのがあったなぁ。
テセウスがミノタウロスを倒しに行くというあれである。
けれど、俺はもちろん、テセウスじゃない。
海王ポセイドンみたいな神の血が流れてる訳でも、剛力でも、秀才でもない。いや、テセウスは秀才ではなかったか…忘れっぽいって書いてあったし。ただ、勇気があったという点では間違いなく彼には劣る。
ともかく、つまりのところ、俺は所謂パンピーだ。
実際、この間までは大阪の地元の高校に通う、ただの高校生だったのだ。
学業の成績は中の中、運動も取り立てて苦手な訳ではないが、得意でもない。
趣味は読書とゲーム。
こんな高校生吐いて捨てるくらいいるのは言うまでもないやろう。
それなのに、俺は今にもミノタウロスが飛び出して来そうな迷宮にアリアドネの糸も持たずにいるのだ。
「はぁ、はぁ…」
俺は膝に手を当て俯き、荒く何回か息を吐いた。
「ちょっとぉ!もう疲れちゃったの?」
よく見慣れた黒髪の少女が怒り気味に文句を言う。
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