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「う、うるさーいっ! そんなこと言う親のためになんて絶対お見合いなんてしないから!」
流石に香澄だって実の母だからといって、こんな暴言じみた言葉を吐かれるのは我慢できない。
顔を憤りで赤くしつつ、反論を試みるも――
「あんた、お父さんの会社での立場をなくす気なの? いくらお父さんがのほほんとしているからって、諾と答えてしまったものをそう簡単に覆せる訳ないでしょう!」
香澄より声に凄みを持った母の叱責にぐっと言葉に詰まる。
確かに香澄の父は子煩悩だ。
起こると鬼のようになる母とは正反対の父は、とても穏やかな性格をしており、特に娘の香澄には優しい。
こんなに嫌がっている姿を見たら、この不況の最中上司が持ってきたであろうこの話を断るだろう。
でもそれは、今後の身を滅っする火種になってしまう可能性だってゼロではない。
何より香澄はパパっこなのだ。
父親が自分の責任で辛い思いをするのは回避できるものなら避けてあげたい。
たとえそれが究極に自分の意に背くことだったとしても。
――ずるい、ずるい。 ずるすぎる、この人!
我が母をこの人呼ばわりしている娘に母は勝利の笑みを浮かべた。
無論、最初から負ける戦でないことは重々承知していたに違いないが。
「と・に・か・く、決定事項なんだから。来週の日曜日までにはまず髪を切ってきなさい」
その言葉にとうとう香澄はしぶしぶながら首肯したのだった。
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