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「……はい? 今なんて言ったの?」
香澄の口からこぼれたのは、自分でも驚くほどの間抜け声だった。
寝転んでいたソファーから身を起こし、観ていたテレビのボリュームを下げる。
普段だったら絶対しないその他人を考慮した行動を起こした理由はひとつ。
母が香澄に伝えた言葉の内容を空耳だと信じたかったからだった。
だが、しかし。
その期待は台風に吹き飛ばされてしまう朝露のごとく、あっけないほど簡単に吹き飛ばされてしまう。
「お見合いをしなさい、って言ったのよ」
「お見合い~?」
年齢の割りに若く見られる、女の子のお母さんとしては及第点の母の言葉を拾って繰り返す。
ソファーの背もたれに手を掛けて身体を後ろに立つ母へ向けて、香澄は眉を極限まで寄せた。
「どうしてお見合いなんてしないといけないの」
ついでに唇まで尖らせて、自分の意思を訴える。
「……あんた、来年はいくつになると思ってるの?」
母は子供を2人産んだとは思えない細い腰に手を当てた。
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