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――このポーズはやばい。
長年彼女の娘をしている香澄は直感的に悟る。
これは母が苛立ちを覚えている姿なのだ。
子供のころ、両手握って腰に添え、鬼のような形相になった彼女に叱られた過去を持つ香澄にとって、あまり見たくない禁断のポーズである。
「に、28です」
確かに若くない。
若くはないが、晩婚の女性が増えている昨今。
そんなに結婚するのに遅い年代でもないはずだ。
母の雷を恐れる、大人気ない娘は少しだけ声に乗せる感情を抑えて答えた。
「そう、28になるのよ」
呆れた声音と共に、母の瞳がすーっと細められる。
香澄は母の頭の上に、2本の角が生えるという幻覚とは思えない程リアルな存在を見た。
これは、本物の雷にも引けを取らない、恐ろしいものが落ちる。
地震雷火事親父。
昔の人はなんて格言を残したのだろう。
嘘っぱちではないか。
香澄にしてみれば、地震雷火事お袋、である。
優しい父よりよっぽど母の方が恐ろしい。
「そのいい歳をした娘がこんな日曜日の真昼間から、出掛けもしない、デートもしないでごろごろしているなんて! なんて嘆かわしい!」
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