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「来週はお見合い写真を撮りに行くから、準備しておきなさいよ。お昼近くまで休みなのにぐうたらしているなんて、言語道断だからね」
「お見合い写真~?」
自分には縁がないと思っていた写真の発言に度肝を抜かれる。
そして、自分が写真館のカメラの前に座り、着飾って笑顔を作る姿を想像する。
果たして着物になるのか、小奇麗なドレスになるのか格好は不明だが、どう想像しても成人式のような写真しか思い浮かばない。
成人式には出席すらしていないので、成人式に着飾った覚えもないのだが。
どうしても世間一般的な想像から行くと、あまり似合わない着物と派手な化粧をした、どうにも不恰好な自分というものしか思いつかなかった。
全ての事象がどうでも良かった時代の話なので、根が素直な香澄でもあまりいいイメージを祝いの式典に持っていないのだ。
「……パス」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。お見合いに写真も撮らない馬鹿がどこにいると思っているの」
ここにいる、と挙手しそうになって、再び見え始めた角の幻影にその手を背中に隠した。
―ーヤバイ、ここで怒らせたら来週1週間は母お手製のお弁当を作って貰えないかもしれない。
こう見えて料理が上手い母の昼食がないのは、精神衛生上宜しくない。
彼女は絵に描いたような花より団子娘なのである。
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