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「お母さん、お見合いお見合いって言うけど、相手も決まっていないのに写真なって今から撮っても仕方ないじゃない」
それでも。
せめてもの反論!と香澄は自分の前に仁王立ちになる母をソファーから睨み付けるように見上げた。
そう、だ。
いくら母が見合いをさせたいからといっても、相手が決まっていなければそんなものは無駄になるだけだ。
喩え今だけの現実逃避だといっても、彼女にはその険しすぎる現実から逃げる僅かな時間が必要だ。
納得して飲み込んでお見合いを受けることと、心の準備もないままにそのある意味辛(から)い事柄を飲み込むのは少し違う。
人間覚悟が決まれば、今を見詰められることくらいの人生経験はしてきたつもりだった。
「相手はもう決まっているわ。予定だって大まかな日取りは決定しているのよ」
「……え?」
それは想像もしなかったことだった。
母の発言は気分的なものから発したことで、ジムのミセス達に煽られた上での発言だと思っていたのだ。
香澄は眉をひそめる。掠れた声が喉から零れた。
「……どういうこと?」
「この話は前からあったことなの。現実味を帯びたのはここ最近の話だけど」
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