1、お見合い話 ~SIDE 香澄~

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   初耳も良いところだ。  そんな前からそんな話が浮上していたなら、もっと早く伝えてくれれば良かったのに。  前もって伝えていてくれたなら――タラレバ論に過ぎないが、こんなに反発をすることもなかったかもしれない。 「そんなこと言われても……」 「仕方ないでしょう、乗り気じゃなかった先方様が突然話を早く進めたいって言ってきたんだから。お母さんだってさっき聞いたばかりだから、まだきちんといろんな算段が出来ていないの」  ――乗り気じゃないって……。  それは香澄だって同じだ。全く乗り気なんてしない。  言い換えれば、勿論相手だって100%乗り気だなんて思ってはいない。 「相手はお父さんの親会社の役員の方なの。そう簡単にこのお話を断ることなんてできないわ」 「お父さんの親会社って……一部上場企業じゃない……」  この不況の最中、飛ぶ鳥を落とす勢いとは言わないが、売り上げを維持している大会社である。  親族会社とまではいかないが、その上層部には同じ苗字が多いと聞いたことがある。  R商事といえば、そこそこ名がしれた企業だ。  この不況の中、もしかしたら公務員より安泰かもしれない会社だった。 *
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