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「松井ー!アンタ1人だけテンポずれてる!!」 体育館に響くラジカセ音源の音楽が、女の人の怒鳴り声と手を叩く音によって突然停止した。 「は、はい!!」 俺の名前は松井翼(まついつばさ)。 高校1年で、ダンス部に所属している。 「松井、ちょっと来な」 高校生になってから始めたダンス。今日もまた常のごとく部長に叱られている。 「…はい………」 部長は、総勢50名のダンス部をまとめるすごい人だ。 黒髪のポニーテールで眼鏡をかけていて、ジャージの袖を腕まくりしているつり目の女の人。 正直な話、ちょっと…… いやめっちゃ怖い。 「あんたねぇ、人混みに紛れてこっちから見えないと思ったら大間違いよ」 「そんなこと思ってな……!」 「つべこべ言ってないで、周りにリズム合わせる努力をしなさい。今のアンタは、誰がどう見てもそうなの」 「…………っ!」 部長の言葉が胸に突き刺さる。 確かに、そうかもしれない………けど、俺は俺なりに頑張ってる。 だから、そんな風に言われたくない……! 小さい頃テレビの中で楽しそうに踊るダンサーを見て、素直にカッコいいと思った。 自分もあんな風にたくさんの人の前で踊れたら、気持ちいいだろうなぁって。 でも、現実はそんなに甘くなかった。 こうして叱られてばっかで、全然かっこよくもなければ楽しくもない毎日。 俺の想像していた世界とは、遥かにかけ離れていた。
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