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「保健室、おいで」
周りに華でも咲きそうな微笑みが眩しい。
が、なんだかそんな神々しいスマイルに対して憎たらしいという感情が芽生えてしまったりして。
「……別に大丈夫です。鼻血なんてそのうち止まるし」
実際のところ、こんな浮ついた奴の手当てなんざ誰が受けるか!というのが本音。
それから、自分があまり女の人からモテた経験がないから、イケメンを前にするとこういう風につっけんどんな態度を隠しきれないのだ。
「……もし鼻の骨折れてたら大変だな。豚っ鼻になって一生治んないかもね」
若干突っぱねたように言ったせいか、先生の声がワントーン下がり、口元の笑みも消え失せた。
「……まじで?」
「まじで。実際いるしそういう人」
思わず鼻の頭に触れる。
鼻血は止まったみたいだが、どうやら腫れてるようだ。
「……保健室、行く」
「そーこなくっちゃ」
満足げに口角を上げると、俺についてきてと言って踵を返した。
不本意ながら、純白の白衣をなびかせて歩く如月先生の後ろをついていく。
目の前にいると迫力のある身長だ。頭一個分の差があって、見上げると首が痛くなってくる。
ていうかまず歩幅が違うんだって。
……羨ましい。
俺にはない長い手足。
それは、ダンサーには必要不可欠と言っても過言ではないものだった。
「んで君、一体何があって鼻血出たの?」
後ろ姿を凝視していると、こちらを振り返った先生の顔が突然視界に入ってきた。
「あ、えと…部活中に、飛んできたバスケットボールが鼻に強打して……」
「んー…なるほどね」
先生は、引き締まった顎に細い指を置き、眉間にシワを寄せながら少し黙り込んだ。
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