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風がやんで、あたりが静まり返った。
今日、なのだろうか。
南は窓の外を見た。
もうすぐ夜が明ける。
昼夜逆転生活の南には、そろそろ寝る時間だ。
でも、今日かもしれないと思うと、眠気は去った。
そっと玄関を出た。
いくら早起きの祖母も、さすがにまだ布団の中だ。
吐いた息が白い。
南はなんの感慨も無く、振り返ることもなく歩き出した。
もう十日以上学校へ行っていない。
祖母の家に来て、毎日お菓子を食べてテレビを見ている。
きっと太っただろう。
でもジャージしか着ないからわからない。
『どうしてそんなことしたの』
何度も聞かれた。
でも答えは一つしかない。
『知らない』
わからない。自分でも、何故なのか。
何故そんなことをしたのか。
ただ、本能のままに、流れに流された。
理由なんてないのだ。
イジメるのに。
理由なんていらない。理由は、後からつくるものだ。
波打ち際をずっと歩いて行くと、断崖が現れる。
コンクリートで作られた階段を上ると、雨ざらしのベンチがあるだけの、公園になる。
湖が一望できるのだ。
でも、ここは地元では有名な自殺の名所。
この湖は、藻が多くて、死体が上がらないことがよくあるらしい。
何年か前に、行方不明者の捜索のために湖をさらった。
肝心の行方不明者は見つからなかったけれど、かわりに身元不明の遺体が何体も上がったのだとか。
南は湖を照らす朝焼けを、目を細めて眺めた。
キレイだけど、切ない。
なぜかそう思った。
朝陽よりも、夕日の方が好きだ。
断崖の上に立って、足元を見ずに朝陽を眺めていられる自分が、なんだかへんに落ち着いているようで、南は少し自嘲した。
今日なのだろうか。
今なのだろうか。
知らない。
ここに立った先人たちは、ここから身を投じる決心をどうやってしたのだろう。
「ミーナ」
突然声がした。
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