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人生の中で経験したことのない痛みが頭に走り、霧島黎(きりしまれい)は重く閉ざしていた瞼を開いた。
状況が飲み込めず、辺りを見渡す。
まず最初に見えてきたのは数字と文字の混じった黒板で、次に見えてきたのは同年代の学生達の姿。
その学生達――クラスメート達の視線は、自分に向けられていた。にやにや、おろおろ。様々な感情が渦巻いているが、今に流れる時間はいい状態ではないことは明白だった。
もう一度、頭に何かが触れる。今度は先程のような痛みは無かったが、なぜか恐怖が混じっているように感じた。
「授業中に寝るとは、いい度胸してるじゃない? 霧島黎くん」
三角定規を持っている中年の眼鏡の女。時計は午前の十時を過ぎたばかり。視界の端で黒板をよく見ると、最近習った数式が書いてある。
黎は、数式の答えを導き出すよりも遥かに早いスピードで、答えに行き着いた。
今は、数学の授業だと言うことに。自分が、居眠りしていたと言うことに。
そして、数学を担任する矢崎は学校で一番の嫌われ者。
嫌われている理由は単純。校内で一番狂暴な人物だからだ。
「すみません!」
言ったところで、意味は無かった。再び走った鈍い痛みは、やはり先生のもつ三角定規によるものだった。
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