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それは再び振り上げられる。三撃目の準備だ、直感的に判断した黎は身を守るために両手で自らの頭を抱え込んだ。
しかしその瞬間、幸運が訪れる。授業の終わりを告げるチャイムの音が、教室のスピーカーから鳴り響いた。
「あら、残念。時間ね。霧島くんは後で先生のところまで来ること」
黎は自分の腕の隙間から様子を伺う。言葉と同じで、先生は勿論のことだが定規で自分を指名していた。
起立、号令が掛けられて立ち上った黎は「めんどくさ……」とだけ呟くと、もう一度イスに座った。
如何にして言い訳をするか。それからの授業はそれを考えるのに必死で、全く頭に入ってこなかった。
帰り支度を済ませ、下駄箱へ向かう学生の波。職員室は下駄箱の逆の位置にあるので、黎はそれを全身で受けていた。
「……何で寝たんだよ、俺」
掻き分けながら、ため息のように吐き出す。
自分でも不思議だった。と言うのも、十六年間の学校生活の授業で一度も寝たことは無かったからだ。
だからそれなりに学力も悪くはなかった――それでも前回のテストでは全校生徒の約半分の順位だったが――し、寝ようとも考えはしなかった。
しかしあの時、自分は寝てしまった。それも、よりによって心の底にしまったはずのあの記憶の夢を。
何故だろう? 思い出そうとするが、結局答えが出ないまま職員室へとたどり着いてしまった。
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