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一回だけ大きく深呼吸をした。
やはり冬の空気は締め切った窓で防ぐことは出来るはずもなく、困難を乗り越えて伝わる冷たい空気は、まるで喉に突き刺さるようだった。
唾を溜めて喉を通してから、扉をノックする。
「一年C組の霧島です。笹田先生に呼ばれてきました」
そう言うと、程なくして扉が開き中から自分の目的の人物が現れた。
「あら、丁度よかった」
コーヒーの香りがする。コーヒーでも飲んでいたのだろうか――気の紛らわしを図るが、彼女に突きつけられた一枚の紙でそれは砕かれた。
「これは……?」
自分の胸へねじ込むように渡されたそれを手に取る。
「それ、罰。今日中に終わらすこと」
そこには、〝旧部室棟の整理〟と殴り書きで書かれていた。
「マジですか」
「マジよ。今度あそこ解体するから、まあ簡単な備品の整理ね。そんじゃ、頑張ってー」
簡単な問いに簡単な答えを返すと、再び職員室へ戻っていく。
閉めたときに出たピシャッとした音は、黎が一人しかいない廊下に響き渡った。
紙を強引に鞄に詰め込み、苦虫を噛み締めたような表情で一度ため息をついてから下駄箱へ向かう。
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