Drop†.1

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 下駄箱では、一人の女子生徒が立ってた。  黎が近付くと、大きく手を振って「遅いよー」と声をかけながら黎の元へと駆け寄っていく。 「もう三十分も待ったんだけど……」  自分と同じ茶色、しかし長さは段違いで彼女の方が長い髪。自分より少し背の低い彼女は、しかめっ面を浮かべた。 しかしその恨みがましい目つきも彼女のくっきり綺麗な二重と長い睫毛によって効果は半減、むしろその子供じみた態度が可愛いとさえ思える。  もし他の男がこの表情を見たら、一目惚れをする確率は高いだろうと、黎は心の底で感じていた。 しかし、恋愛などの感情は決して湧いたことはない。そして、これからも湧くことはない。 「悪い悪い。先帰ってても良かったのに……」 「今日、鍵忘れちゃったからお兄ちゃんとじゃないと家に入れないの!」  理由は簡単、黎と彼女――霧島雪は、兄と妹の関係だからだ。  隣でゴチャゴチャ話す妹の声を右から左へ受け流し、黎は自分の靴を下駄箱から取り出して早々に玄関を出た。
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