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突然だが・・・
俺、藤森拓也は幽霊だ。
しかも、なりたてホヤホヤ。
最初は俺も信じられなかった。
でも・・・ほら、目の前にいる俺のことが、彼女には見えていない。
もちろん触る事も出来ないし、それに・・・
「志穂ちゃん!すすす・・・好きだ!」
だいぶ大きな声を出してみたが、この一世一代の大告白も彼女はヒザを抱えたまま何の反応もなかった。
「・・・」
な?俺の声も聞こえないんだ。
なんでこんな事になったかと言うと・・・
高校2年の修学旅行、俺達は歴史散策という事で一昨日からこっちへ宿泊していた。
初日から松尾芭蕉が通ったという旧街道を歩き、城に登り、使い道の無さそうな土産を買い、今日はここ、鍾乳洞にやってきていた。
「大体、修学旅行で洞窟ってちょっと渋すぎだよな」
同じ班の山田のグチに志穂ちゃんが笑顔で応えた。
「洞窟、いいじゃないか。私はこういうの好きだよ」
志穂ちゃんがそう言うなら俺ももちろん賛成だ。
「渋くていいよね洞窟。俺も好き」
「そうなの?だったらちょっと付き合ってくれないかな?前にネットで調べたんだけど、この辺りには、隠された洞窟があるみたいなんだ。藤森君、一緒に探してみない?」
「それいいな!一緒に行こう!」
班行動を離れ、志穂ちゃん・・・同級生の亜矢瀬志穂と、洞窟を探して山を歩いていたんだが。
「道路から外れてから、もう結構経ったよな」
「そうだね、別の場所を探そう。・・・痛たっ。何か踏んだかも」
足下を見てみると、そこには藁で出来た太く編まれたロープのような物が落ちていた。元は垂れ下がっていたのだろう、そのロープにはいくつもの四角が繋がっているような白い紙の帯が何枚か付いていた。何か意味があるのかと眺めていると
「・・・今、何か聞こえた?」
「そう?俺は別に」
耳を澄ましてみたが、相変わらず何も聞こえてこない。
「確かに聞こえたよ。多分こっちの方・・・わっ!」
周りの景色に目をやった一瞬、志穂ちゃんの姿は消えていた。
「え?志穂ちゃん!どこに・・・うわぁっ!」
近くを探そうと足を踏み出そうとした先、そこに、地面は無かった。
・・・で、洞窟に落ちて、俺は気付いたら幽霊になってたってわけだ。
まあ俺については、こうなった以上、諦めもつくんだが。
「寒い・・・」
志穂ちゃんの顔色が悪い。ひどく体調が悪そうだ・・・
不幸中の幸いというか、俺はポルターガイストって奴なのか、物を動かすことはできるようだ。せめて志穂ちゃんだけでも、助けることができるかもしれない!
「寒い、寒いよ・・・」
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