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「驚かなかった、って言ったら嘘になるけどね。私が何の仕事してると思ってるの? それもアリでしょ、って思えるわよ」  明良は、知らず詰めていた息を大きく吐き出した。 「あの、さ……この一年で野上には随分助けられた。なんか、こう……野上がいない、って生活は考えられないってか……俺はやっぱり……うん……」 「うん、って何よ! わかんないじゃない」  はっきりした言葉を口にしない明良に苛ついた野上が、結構な力で大きな背中をど突く。 「おわっ……いや、あの、その、俺と付き合ってください!」  最後には顔を赤くした明良は声を張り上げた。 「はぁ?」  声を裏返した野上が墓と明良に、交互に視線を走らせる。 「私に言ってるの? それに、山川君、彼の前でよくそんな事言えるわね」 「勿論野上に言ってる。それから、こう言う事は善生の前でちゃんとしないといけないと思ってる。善生は言ったんだ。生きている間は、って。だから、死んだ後も俺を独占しようなんて考えなかったと思う。俺がしなくちゃいけないのは、あいつを忘れない事と、あいつが生きていた証を明確にする事なんだ」 「証?」  野上が目を瞬かす。 「俺、本当はあいつのために医者を目指したんだ。……結局助けられなかったけどな。だけど、あいつのお陰で俺は医者になった。これは絶対なんだ」  野上はもう一度目を瞬かすと、しっかり墓に向き直った。 「そっか……じゃあ、私もしっかり返事しなきゃね。……山川君も私も、一人でも多くの人の助けになるような医者になるため、二人で一緒に頑張っていきます。……と言う訳で、山川君、こちらこそよろしく」  最後は明良に向けて、野上は言った。  来た時と同じように二人で車まで戻ったが、墓が見えるぎりぎりの所で明良は振り返り小さく呟いた。 「また、来る……もう、謝らなくて良いんだ……善生」  明良は、野上が車のドアに手を掛ける前に助手席側に回り込んでドアを開ける。 「これからは、助手席にどうぞ」  野上は小さく吹き出すと、しっかり頷いて助手席に座った。  野上の家の前に車を停めると、明良は歯切れ悪く口を開いた。 「あ~……ごめん。これから行かなきゃなんない所があるんだ。今日はここまでで……」  明良を真っ直ぐ見詰める視線に促され、濁した先の言葉を繋ぐ。 「善生が世話になった人達の所へ行くんだ……」 「そう。わかったわ」
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