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 今日の夕飯も、二人の体調を気に掛ける母親に送ってもらったレシピによるものだ。夕飯はどちらが、とは決めず、早く帰れた方が作る事にしている。二人とも料理が得意ではなく、母親は簡略化したレシピばかり送ってくれるので、かなり助かっている。 「今日新しく入所してきた人がね、ちょっと前まで合気道の師範してた人でね、凄く体ががっちりしてて重たいんだ。短大の時に筋トレしてて良かったぁ。僕、入浴介護で頼りにされちゃった」  嬉しそうに今日の出来事を話す様子に、明良も甘く緩んだ表情で相づちを打つ。  夕飯の片付けを二人で手早く済まし、別々に入浴も済ました。 「おやすみ」  背伸びをして明良の唇に軽くキスをすると、赤くなった顔を隠すようにパッと身を翻して自室に駆け込んでしまった。抱き締めようとしていた明良の手は、所在なさげに宙でわきわきと動いている。  二人ともが働き始めた頃に、仕事に支障をきたさないように、としっかり話し合ったため、休日の前夜でないと体を重ねる事をしない。お互い夜勤があったり、勤務時間が不規則なために、寝室からして別にしている。 「おやすみ……」  溜め息とともに小さく呟き、明良も自室へと入って行った。  ――――――  明良は、けたたましい目覚まし時計のベルに起こされる。  重い頭で見渡す部屋は、生まれ育った実家の自室。勿論、隣に善生の部屋などありはしない。  善生の月命日になると、無理だと思いながらも、昔想い描いていた将来の予想図を、夢に見る。  これで十二回目。夢の中で、善生は数年歳を重ねている。  大きく息を吐いてベッドから起き上がり、明良は身支度を始める。今日も仕事なのだ。 「野上ー、明後日の休み、空いてるか?」  昼休みに同期の野上に声をかけると、野上は目を見開いた。 「あら、珍しいわね。でも呑みだったら、明日の夜が良いんだけど」 「違う違う、昼間だし」 「ま、空いてるから良いわよ」  明良が車で迎えに行くと、やはり不思議そうな顔をされる。 「私がこの車に乗って良いの?」 「あー……悪いけど、後ろに乗ってくれるか?」 「はいはい」  車に乗り込んだ野上の、どこに行くのか、と言う問いははぐらかし、まずドーナツ専門店に寄る。 「すぐだから、ちょっと待っててくれ」  野上を車に残して、大きな箱ひとつ分テイクアウトしてくる。そのまま墓地へ向かった。
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