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私は、マフラーの暖かさを、感じながら、これをくれた彼のことを、考えていた…。
あの人は、一体誰なんだろう…。
もう一度、会えるかどうか、わからない人だ…。
そう、あの人は、ただの通りすがり…ただのお節介…ただの物好き…。
…なんでも、よかった。
でも…この広い東京の街で、一緒に住んでいる幼なじみとバイト先の人以外で、初めて、まともな会話のできた人だ…。
なんだか、心に小さな明かりが灯ったようだった。
ガチャガチャ…カチャ
「…ただいま。…洸ちゃん?」
部屋は、真っ暗で、返事はどこからも返ってこない。
「…また、帰ってないんだ…はぁ…。」
溜め息が、出る…。
一緒に住んでいるのは、私の幼なじみ…洸一。
彼は、夢を叶えるために、この東京へ来た。
その夢が叶って、半年余り…。
今は、街で、洸一の歌う曲が、よく流れている…。
洸一と一緒に、東京へ出てきて、彼を、影ながら、必死に応援してきた。
だから、洸一の夢が、形になったことは、彼女…美紗にとっては、すごく嬉しい事だった。
けれど…、最近は、何かと口実をつけて、ここへ、帰ってこなくなった。
『仕事、忙しいんだ…。』
その一言を言われたら、美紗は、何も言えない。
実際のところ、洸一のスケジュールは、びっしりで、分刻みで、仕事をしていたのだから、嘘ではない。
「私って、洸ちゃんに、とって、一体なんなんだろう…?」
美紗は、今、不安で仕方なかった…。
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