ある日紅い空の下

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 一つ、昔話をしよう。  七年も前の話になる。もう廃れてしまった英雄譚。  もう、はっきりと憶えている人の方が少ないだろう。  南地区中央公園。  魔術学園都市 杉並市の中で最大規模を誇る、子供たちの遊び場。  赤ちゃん卒業のヨチヨチ歩きから思春期で荒れたヤンキーまで。  喧噪絶えない世紀末の様相孕むこの場所には、かつて一つの伝説があった。  ――――南中央公園には、赤い勇者と黒い魔王がいる。  彼らは実在した。  その姿を見かけると、歴戦の不良たちですら震えあがり借りてきた猫のようにおとなしくなったものだ。  しかし、憶えている者は少ないだろう。二人が親友であったことまでは。  たしかに、二人の存在を記憶に留めているものはその限りでない。  古くから、勇者と魔王は戦う運命にあるものだ。だが、彼らはその限りではなかった。  そう、彼らは本当に――――、大切な仲間であったのだ。
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