ある日紅い空の下

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 まず、僕のことを話そう。  僕は"賢者"と呼ばれていた。  教科書に載るような偉人だった我が祖先は国語に古文、社会から理科、基礎魔術の科目にも取りざたされる有名人であった。"西の大賢者、異世界からの来訪者、この世界に科学をもたらせた大賢人"。呼び名に事欠かない伝説の偉人……だったらしい。  子供なんて単純なものだ。  "賢"の文字が多く並ぶわが祖先のおかげで、僕のあだ名はすんなりと、異論の余地もなくクラスの全員から呼ばれることとなった。  まあ、残念なのは、確かに僕は賢者の祖先であったことか。  子供としてふるまうには僕は聡く、大人には生意気どころでない、ませた少年であった。  僕には、目に見えるすべてがつまらなく見えていた。  子供の視点の全てが楽しく愉快に映るのは、彼らが物事を知らないからだ。ニンゲンという好奇心の怪物にとって、未知を体験する以上の喜びはない。  僕の家系は、前任者の知識を受け継ぐ特殊な家系だ。未知への好奇心という喜びを奪われた僕には、世界は酷くつまらないものに感じていた。  見上げる空はいつも灰色で、全ては暗い色に包まれていた。
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