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そんな僕の日常に、それは土足で入りこんできた。
『――――キミだね』
教室の端で本を読む僕に手を差し出す。
周囲の瞳に焼き付けるような赤い髪。活気に満ちた精悍な顔つきに爛々と輝く琥珀色の瞳。ただそこにいるだけなのに、目を逸らしたくなるような眩しさで、それでもなお目を奪われる。
そいつは自身を"勇者"と名乗った。
それを聞いて、どこか納得したのを覚えている。ああ、確かにそれらしい。伝説の剣も煌びやかなマントに負けることなく、この美しい紅い髪にはとてもよく映えるだろう。
『君の力が必要なんだ』
その言葉に、吸い寄せられるように、僕はその手を取っていた。
少女は、また大きく笑みを浮かべると、僕の手を掴んだまま、全速力で走り出した。
それが、勇者と僕の出会いだった。
勇者のパーティは三人。
賢者である僕以外に、戦士と僧侶がそこにいた。
少女たちは、実際に世界を救っていた。
汚れた壁の掃除から発生したスズメバチの退治まで。
時にはいじめっ子たちや不良たちと大立ち回りをすることもあった。
子供たちの英雄。ちっぽけながら悪と戦うその日々に、僕の心は躍っていた。
青空のもと駆け回る世界は、何もかもが色づいて、今も消えない記憶のフィルムとして焼き付いている。
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