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「律ちゃん、これで何やるか分かるよね?」
真理亜は奈美からボールを奪い取り、律に向けて尋ねた。
すぐにわかるはずだ。俺は別に気にする様子もなく、適当に出方を見ていた。
「わかんない。」
10歳。この年齢ならすぐにわかると思っていた。甘かった。
この子は普通の家に生まれた子どもじゃない。その上、こんな育て方をされているのだ。無理もないか。
よし。一肌脱ぐか。
「奈美。そっちに立ってろ。」
「はい。」
ドッジボールとは、坪井玄道らによって日本に持ち込まれた子どもたちに人気なスポーツで、主に小学校で遊ばれるものだ。
子どもの頭ほどの大きさのボールを使用し、2チームで戦う。
大体の説明をして、実際にやってみることにした。体験した方が覚えやすい。
「いくぞ!」
俺からスタート。
相手は律、奈美、真理亜。蔵屋敷老婆は見学と言った感じか。
本気出したら一瞬で終わるだろうから、ここは軽く投げよう。
子どもの頃は手に収まらなかったこのボールも、今ではしっかり握れる。このゴムの感触が懐かしい。
右手にボールを持ち、半身状態から左足を上げ、踏みこんで優しく投げる。
少し軌道がずれてしまった。
奈美に届く。
「僕は本気でいいんですよね。」
「まぁ、俺が取れないボールなんて・・・。」
瞬発力に感謝すべきだった。気がつけば、眼前にあった。
奈美、意外だぞ。
「ほらな。」
次は律に渡す。
「わわわ。」
「大丈夫だよ!落ち着いてあのおじさんを悪い人だと思って投げれば、いいボールが投げられるよ。」
真理亜の説得は、奈美が俺を悪い人だと思っているということにも繋がった。
それに、おじさん。先程の律の発言は気にしなかったが、真理亜に言われると凹む。
「わかった、おねえちゃん!いくよ!」
あいつはお姉ちゃんなのか。さほど年も変わらんが・・・。
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