大財閥のお宅にお邪魔する

11/22
前へ
/195ページ
次へ
下手なボール。 それでも彼女は楽しそうだった。蔵屋敷老婆も微笑んでその様子を見ていた。 気がつけば、『クマ』は老婆の手元にあった。 「えーい!」 「よくもやったなー!」 俺がボールを振り上げた瞬間だった。遠くで誰かがこちらを見ている。いつから見ていたのだろう。 「誰だ?」 俺の声に全員がその方向を向く。正装をした若い男が立っていた。 「あ・・・。」 老婆が焦ったように言葉を発した。 「もう戻りましょう、律様。家庭教師の先生がお待ちですよ。」 「えー!まだ遊びたい!」 「駄目です!またあの目に会いたいのですか!?」 老婆の強い言葉に俺たちはたじろいだ。 振り向きながら俺たちを見つめる幼い目は、先程1人で遊んでいた時と比べて、生気を取り戻していた。しかしこれから現実に引き戻される恐怖からか、何かに怯えているようだった。 老婆が言った“あの目”とは何のことだろう。 「セキさん、もう僕たちの目的は達成されてるんですよ。早くマダムに連絡して終わりにしないと。」 「場所は分かったんだし、いいじゃん。もうあのおばさんに連絡しよう。」 ここで終わる。それでいいんだ。俺たちの仕事は終わったんだ。 “あの目”・・・。 「気にならないのか?おかしいだろ?」 「あれですか。それはそうですけど。」 「私たちの仕事じゃないでしょ。」 「ドッジボールをしている時、りっちゃん楽しそうだったな。」 皆が触れなかった1つの疑問を口に出す。あえて触れていなかったことだが、何かありそうだ。 「なんでりっちゃんはタートルネックで長ズボンなんだ?こんな暑いのに。」
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加