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下手なボール。
それでも彼女は楽しそうだった。蔵屋敷老婆も微笑んでその様子を見ていた。
気がつけば、『クマ』は老婆の手元にあった。
「えーい!」
「よくもやったなー!」
俺がボールを振り上げた瞬間だった。遠くで誰かがこちらを見ている。いつから見ていたのだろう。
「誰だ?」
俺の声に全員がその方向を向く。正装をした若い男が立っていた。
「あ・・・。」
老婆が焦ったように言葉を発した。
「もう戻りましょう、律様。家庭教師の先生がお待ちですよ。」
「えー!まだ遊びたい!」
「駄目です!またあの目に会いたいのですか!?」
老婆の強い言葉に俺たちはたじろいだ。
振り向きながら俺たちを見つめる幼い目は、先程1人で遊んでいた時と比べて、生気を取り戻していた。しかしこれから現実に引き戻される恐怖からか、何かに怯えているようだった。
老婆が言った“あの目”とは何のことだろう。
「セキさん、もう僕たちの目的は達成されてるんですよ。早くマダムに連絡して終わりにしないと。」
「場所は分かったんだし、いいじゃん。もうあのおばさんに連絡しよう。」
ここで終わる。それでいいんだ。俺たちの仕事は終わったんだ。
“あの目”・・・。
「気にならないのか?おかしいだろ?」
「あれですか。それはそうですけど。」
「私たちの仕事じゃないでしょ。」
「ドッジボールをしている時、りっちゃん楽しそうだったな。」
皆が触れなかった1つの疑問を口に出す。あえて触れていなかったことだが、何かありそうだ。
「なんでりっちゃんはタートルネックで長ズボンなんだ?こんな暑いのに。」
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