2人が本棚に入れています
本棚に追加
老婆の話を聞き始めた時だった。
何かが割れる音。
ドアは開いていない。窓から入るしかないが、この建物にはほとんど窓がない。
「窓割って、中に侵入します!許可を!」
「お、お願いします・・・!」
外から窓のある部屋へと向かう。
普通じゃ鳴らないような音。嫌な予感しかしなかった。暴力家庭教師の存在が分かった以上、あの疑問に対する推理は明確化しつつあった。
傷や痣。それを隠すためのタートルネックと長ズボン。
彼女は誰にも見せたくないそれを必死になって隠している。10歳の少女にそこまでするあの男の神経が分からない。
とにかく許せない気持ちが強くなった。
「ここだ。」
外から窓のある部屋の前に着いた。窓まで結構な高さがある。俺がジャンプしても届かない。侵入する以前に割るのも一苦労だ。
「僕、やります!」
奈美の方を見るとボールを抱えていた。そうだ、奈美なら出来る。
美少年は後ろの方に下がると、5メートル前後の高さにある窓に向けてボールを勢いよく投げた。
そのボールは先程のそれと比べて、格段に速く、正確に投げられていた。
見事に窓に命中すると、防弾素材ではない窓は粉々になった。
割れたのはいいものの、まだ高さはある。
こっちには老婆を抜いて3人。
「肩車だ!」
真理亜の上に奈美、奈美の上に俺が乗る。
「おかしいでしょ!!」
「暴力教師にお前が勝てんの?」
真理亜は口をとがらせると、そのまま黙ったまま、大の男2人を担いだ。
何とか手が届きそうである。
「真理亜、一瞬ジャンプして!」
「無理だよ!」
「ちょっとでいいから!」
真理亜が跳んだ。何とか窓の枠に手が届いたが、下半身に激痛が走る。
しかし、跳んだ直後のみの痛みである俺に比べたら、奈美は着地時の痛みも加算されるため、単純計算で俺の倍以上の痛みを感じているはずだ。声を発さない奈美がすべてを物語っている。
そんなことはどうでもいいとして、俺はありったけの力を込めて壁をよじ登った。
最初のコメントを投稿しよう!