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信楽平蔵氏は財閥関連にも鼻が利く成金爺だが、彼の権力となればこの人の会社の命運も左右することができる。だからこうして息子であるこの男に媚を売り続けているようだ。
「いい加減にしてください!!あなたは何も知らないじゃないですか!!」
奈美も熱くなった。俺の影響かもしれないが、まだ心は弱い。ここは俺が徐々に畳みかける。
「奈美、いいよ。」
「セキさん・・・。」
「・・・誉田様、私は反省する必要はないと思っているんですよ。」
肉厚中年厚化粧の怒りのバロメーターが一気に上がっていくのが目に見える。
その様子を冷静に見ている俺は、周りからどう見えているであろうか。
奈美からすれば、冷静に対応できるカッコいい上司。肉厚からすれば、クソ生意気で非常識なガキ。変態家庭教師からすれば、ビビっちまって声も出ねーダサイ男。メイドからすれば、誉田誉に対抗できる唯一の男。蔵屋敷老婆からすれば、救世主。
俺は、悪を許せない。
携帯が鳴る。真理亜からである。
「おっと、失礼。」
携帯を取ると同時に、録音機を落とす。それを見た信楽は、先程までの余裕を失ったように顔面蒼白になった。
「お前・・・録ってたのか。」
聞こえないふりをして、真理亜の声に耳を傾ける。
「セキさん、やっぱり・・・だよ。」
「そうか。わかった。それなら、こっちももう終わりにする。」
電話を切る。落ちていた録音機を拾う。
歪んだ厚化粧は不審そうにこちらを見た。
「何よ。それ。」
「これですか?探偵にとっての必需品です。」
「やめろ・・・。」
解けた縄を足に絡ませながら、信楽は必死にこちらに寄って来た。
俺はするりとかわす。
「そろそろ、あなたが一方的に悪いと言った私の言い分でも聞いていただきましょうか。なぜ、その男を蹴り飛ばしたかについて。」
信楽の顔を見る。訴えかけるその瞳は、ただただ汚らわしく、再び暴力的な衝動が走る。それを必死にこらえ、握りこぶしに力を入れた。
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