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「旦那はそれがほっとけなくて、自分の子としてではなく、養女として引き取ったの。だから汚らわしいのよ。その女も、その子も!!でも、旦那は違うわ。私に金をくれる。最高のパートナーよ。まさに銀行ね!!」
沈黙が訪れた。話は終わったようだ。
「はぁ、やっぱり理解できませんよ。ねぇ、剛三郎さん?」
ぐちゃぐちゃになった厚化粧が振り返った先には、誉田剛三郎氏の姿があった。すべての発言を聞いていたようだ。
「何か問題があるとメイドから聞いて、来たのだが・・・問題だらけだ。」
「ちょ、あなた待って!」
「駄目だ。貴様のような腐った人間など、どうしようもない。離婚だ。」
「何を言っているの!あなたは私なしじゃ生きていけない!」
「お前が、妻らしいことを1度でもしたか?与えた金をとことん使いこみ、挙句の果ては自分で勝手に通帳から引き出す始末。私は体裁を守るため、離婚など決してしないと決めていたがもう、無理だ。」
この男もこの男である。すべて吐き出しておこう。
「夫婦喧嘩中申し訳ないですけど、あなたもあなたですよ。律のことをちゃんと毎日見ていれば、すぐに児童虐待には気がついたはずです。蔵屋敷さんは分かっていたのに、あなた方は一切耳を傾けようともしなかった。あなたたちに子どもを育てる資格はない。現に、少なくともこの屋敷の中では、彼女は蔵屋敷さんにしか心を開いていないんですよ。」
剛三郎氏は俺の言葉を聞き終えると、まっすぐ前を見つめ、律の方へと近寄った。
咄嗟に真理亜の後ろへと隠れる律。
向かい合う親子だが、これほど関係の成り立っていないものは親子とは言えないのではないだろうか。
剛三郎氏の大きな頭は地面に着くような勢いで、下に下がった。
「申し訳なかった!!律、許してくれ・・・。この通りだ・・・。これからはしっかりと父親らしいことをする。母親などいらないと思えるくらいのしっかりとした父親になる。許してくれ!!」
涙を流しながら頭を下げる大の男は、心から反省しているようだった。
しかし、その思いは律に届くことはなかった。
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