過去の話をひとつ

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 同い年か一つ上くらいの男が頬に殴られた痣、雑に着た服にはビリビリに破られ所々血痕がある。ぐったりと倒れ、起きそうにない。  テスト前に変なのに巻き込まれたくないという思考はその人が発した苦しそうな声でかき消された。 「あの、大丈夫ですか?」  近づいて触れるとねとりとしたものが手にまとわりついた。臭いですぐなにかわかるそれは、よく見れば男の身体中についている。 「あ、れ……?まだ残ってたの?」  絞り出した声はとても意味深な言葉を紡いだ。 「なにを勘違いしてるか知りませんが僕はたまたま通りがかった人ですよ」 「あー、そうなんだ!あ、通報すんなよ。そういうプレイだから!でも声かけられるなんてラッキー!ねえ、君独り暮らし?今日は家に帰れなくってさ~。泊めてくんないかなあ?お礼はするからさ」    言いたいことだけ言って相手のことは無視。  気づいた。この人は関わりたくない、兄のような人種だ。 (続く)
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