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体力を蝕み、水分を削る、
そしてレーザーのような日差し
五月蝿いアブラ蝉ども、
自転車での移動中では
何十匹と顔面に蟲が当たる
『暑い』
いつでも口を開けば、
幾度と出てくるこの言葉は
きっと何かの
呪文なのかもしれない
そして、我々に
そんな魔法をかける季節
【夏】
季節で1番嫌いで、
1番疲れる季節でもある
「…暑い」
自転車を引いて、季節に合わぬ
ジャージ姿の俺は、
長い神社の階段を上がる
その最中でも、幾度幾度と
聞かされ続ける蟲の音
鼓膜を揺らされる度に
苛立ちと疲れが溜まってゆく
階段を上がりきると、
視界に入ってきたのは
こっぴどく汚れた祭壇
社の近くにかけてある
竹箒を手に取って
祭壇を掃除し始める
こんな仕事、
本当はやりたくない
だけど…
「……ぁ」
社から呻きに近い、
動揺混じりの声が聞こえた
「…来て…くれたんだ」
銀髪混じりの髪質に
たれ気味のツンツンヘアー
幼い体型に半袖、短パンと言う
まさに『夏』と言う感じな服装
そして、
季節に合わない真っ白な肌に、性が分からないほど綺麗な顔立
『彼』は嬉しそうに
微笑んでいた
「……来てやったさ」
竹箒を肩に担ぎ、
かったるそうな顔をしてみるが
内心、嬉しい感情を抱いた
そんな俺は、彼を横目に
祭壇掃除を再開した
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